〜目指すもの〜 <とんでもない宣告と出会い>


 まぁ何がともあれ、土曜日の練習試合のこともあって今週、先輩方は
かなりはりきって練習していた。
俺も例外ではない。先輩と幾度となく対戦させられている。
勿論、今日も。が…、

「らぁっ!!」
「まだまだ!リズムをあげるぜ!!」
「わぁぁぁぁ?!…っと。」

ガインッ!!

 ………………………。

「あのな、…」

 勝負がついた時、ネットの向こうの神尾さんが勘弁してくれと
いわんばかりに言った。

「頼むから打球にぶつかんのいい加減やめてくれ。」
「ふぁい…」
「おいおい、マジかよ。」 

 その様子を見ていた2年生の内村京介さんが目深にかぶった
黒いキャップのつばを弄りながら呟いた。

「お前ヤバいんじゃねーの、仮にも橘さんがレギュラーに入れてくれたってのに。」
「うぅぅ…」

 確かに。こんなんじゃ全然チームに貢献できやしない。

「仕方ないんじゃない。」
 
 伊武さんが口を挟む。

がドジなの今に始まったことじゃないもんね、だって初めて入部してきた時
俺のキックサーブ思いっきり顔に食らってたし、ってゆーかさぁ…」
「おい、よせよ。」

 内村さんのダブルスパートナー、森辰徳さんがブツブツ言い出した
伊武さんを止めようとする。

「いいです、森さん。事実やからしゃぁないです…」

 俺は凹みながら呟いた。伊武さんにぼやかれても仕方がない。
実際、不動峰に入ってきた時から俺のそそっかしさは常軌を逸しているのだ。

球拾いをしていたら必ず一回は先輩の打った流れ球に当たる、
ネットを片付けようとしたら足に引っ掛けて転ぶ、極め付けは部室に
ボールを運ぼうとしたらどっかにぶつかってボール雪崩を起こしてしまう。
あの部長に冷や汗をかかせたこともあるくらいだ。

テニスをする時も打ち損ねるのは勿論、試合になれば先輩の打球に
頭をぶつける、球を拾おうとして滑り込んだら膝をすりむく、
球を拾えたかと思えば力加減をミスってアウトにしてしまう等等、
自分で並べるのが悲しいくらい俺はドジである。

、」

 1人で落ち込んでいると、白い布を頭に巻いた大柄な先輩に呼ばれた。
不動峰一のパワーを誇る石田鉄さんだ。

「橘さんが呼んでるぞ。」
「え、あ…はい…」

 俺、今日何かしでかしたっけ???
訝しく思いながら俺は部長がいるベンチの方にすっ飛んでいった。

ベンチに座って何か考えていたらしい部長は俺が来たことに気がつくと
顔を上げた。

か。」
「お呼びやって聞いたんで…」
「あぁ。」

 部長は頷いて俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
凄く真剣だったので(もっとも、この人がギャグ面をすることは早々ないが)
俺は何か重大なトラブルでも起こしたかと今日1日の行いを高速で反芻していた。

、」
「は、はい。」
「今度の練習試合だが」 
「はい。」
「お前も出すからな。」
「はい…って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 部長、今、何て言いました?聞き間違いだと思いたいんですけど?!
俺が素っ頓狂な声を上げたので他の2年生の人たちも何事かとこっちを見た。

「ちょ、ちょう待ってくださいよ、橘さん!!」
「どうかしたか?」
「どーもこーもへったくれも!」

 俺は半ば絶叫モードで言った。

「何で俺を?!俺、ドジやし間抜けやし未熟やし…」
「実力試しだ。」

 部長はにべもなく言い放つ。

「でも、相手はあのせーがく…」
「俺が出すと言っている。」

 何故だかよくわからないが、部長の言葉にはいつも逆らう隙がない。
俺はおとなしく首を縦に振るしかなかった。



 しかし、だからと言って納得出来るもんではない。
その日家路に着きながらも俺はずっと考え込んでいた。
どうして部長は俺を出す、と宣告したのだろう。
只でさえ(補欠とはいえ)何故レギュラーにされたのか自分でも
わからないような俺を。
それも全国的プレイヤーが犇いているあの青学相手にだ。

「橘さーんっ、俺を殺す気っスかー!?」

 道端で思わず馬鹿みたいに叫んでしまう。

「うるせぇぞ。」

 いきなり背後から物凄く低い声が響いた。
てっきり人がいないと思っていたのでギクリとして振り向くと、そこにはつややかな
黒髪のちょっと顔つきが怖いお兄さんがいた。
背丈は多分、俺より10センチ以上は高い。鍛えているのがよくわかる体つきだ。
制服を着ているところを見ると多分、中学生か高校生かその辺だろう。
ついでによく見るとテニスバッグを背負っている。

「何道端で騒いでやがる、この馬鹿。」

 うっ…! 関西人は阿呆より馬鹿って言われる方が応えるんですけど…

「い、いや、その…。どうもスンマヘン…」

 俺は決まり悪くてモゴモゴと呟いた。
お兄さんはそんな俺を釣り上がった大きな瞳で一瞥するとフンッと鼻を鳴らした。

「ほな、俺は失礼します。ホンマにすいませんでした。」

 俺はそう行ってそそくさと退散しようとした。

「おい。」
「はい?」

 いきなりお兄さんが呼び止めたので俺は足を止めた。

「お前、もしかして…」
「はい、何ですか?」
「いや、いい…」

 ??? 訳がわからんお兄さんである。とりあえず向こうさんも
それ以上何も言おうとしないので俺はもう一度、すいません、と言って
足早にその場を去った。

家まで小走りに駆けながら俺はふと、さっきのお兄さんのブーメランみたいに
なってる特徴的な眉は地なのかそれともかいているのか、と気になった。

To be continued...


作者の後書き(戯言とも言う)

どうも、撃鉄です。〜目指すもの〜第2回は如何でしょうか?
(如何もへったくれもないかもしれませんが)

前回と比べると無駄に長くなってしまいましたが何とか肝心の人物を出すことができました。
名前出すのはまだ先のことですが…。

それより不動峰の皆さんは橘少年、神尾少年と伊武少年以外、どんな口調なのか見当がつかなくて
難しいです。当方、ファンブック10.5以外に資料がないので完全にデータ不足。
(乾少年か、お前は…)
20.5が出る頃には何とかなるでしょうか。とにかくデータ欲しいー!!(←阿呆)

何がともあれ次回も宜しければ読んでやってくださいm(_ _)m

 
次の話を読む
〜目指すもの〜 目次へ戻る